大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島地方裁判所 昭和34年(そ)1号 判決

請求人 須田慶蔵

主文

請求人に対し金八千円を補償する。

理由

本件刑事補償請求の要旨は、請求人は、詐欺被疑事件に因り昭和三十二年四月二十五日逮捕され、更に同月二十七日勾留され、同年五月十四日保釈許可に因り釈放せられた。而して請求人に係る詐欺被疑事件は同年二月十三日付(昭和三二年(わ)第一〇号)、同年五月四日付(同年(わ)第三二号)及び同月十七日付(同年(わ)第三六号)の三回に亘つて福島地方裁判所に起訴となり、同裁判所は右三個の事件を併合して審理の上同年九月十七日全部の起訴事実について無罪の判決を言渡し、この判決は同年十月二日確定した。仍て右抑留拘禁二十日間に対し一日四百円の割合の補償を請求すると謂うに在る。そこで請求人に係る詐欺被告事件記録(昭和三二年(わ)第一〇号、第三二号、第三六号)、右被告事件の判決書謄本、福島警察署巡査五十嵐文男の当裁判所裁判官宛の電話回答箋、福島地方検察庁検察事務官菅野貞信の当裁判所裁判官宛の電話回答箋を査閲するに、

請求人は詐欺被疑事件の為め当裁判所裁判官逢坂修造の発した逮捕状に依り昭和三十二年四月二十五日福島警察署に逮捕留置され、次で同裁判所裁判官佐々木泉の発した勾留状に依り同月二十七日同警察署に勾留され、同年五月四日一旦釈放となつたが、更に他の詐欺被告事件(昭和三二年(わ)三二号)の為め同裁判所裁判官富川秀秋の発した勾留状に依り、即日福島刑務所に勾留され、同月十四日保釈許可決定に因り釈放された。一方当裁判所は請求人に係る詐欺被告事件につき、右逮捕以前から当裁判所で審理中の昭和三二年(わ)第一〇号事件と右二回目の勾留当日である同月四日付起訴の右同年(わ)第三二号事件及び釈放後である同月十七日付起訴の同年(わ)第三六号事件とを併合審理した上、同年九月十七日全部の起訴事実について無罪の判決を言渡し、右判決は同年十月二日確定した事実を認めることができる。

尚前記被告事件記録に依れば、同年四月二十五日の逮捕及び同月二十七日の勾留の原由となつた詐欺被疑事実は請求人に係る三回に亘る詐欺被告事件の起訴事実中には包含されて居らないけれども右逮捕勾留中に右起訴事実について捜査官が捜査を為している事実が明かであるから右逮捕の日から再度勾留状の発せられた同年五月四日迄の抑留拘禁は無罪となつた起訴事実の取調の為めに利用されている訳であるから此の抑留拘禁の日数も亦その後の抑留拘禁の日数と共に補償の対象たるべきものと解すべきである。

右は刑事補償法第一条第一項に該当するので同法第四条第二項に定める事情を考慮した上同条第一項前段を適用し前記抑留拘禁日数弐拾日に対し壱日金四百円の割合に依る合計金八千円の補償を為すのが相当と認められる。

仍て同法第十四条、第十六条前段に則り主文の通り決定する。

(裁判官 菅野保之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例